トップページ > 受賞作トップページ > 第3回二次選考通過作品

応募要項

選考経過発表

二次選考通過5作品

『猫弁 〜死体の身代金〜』 大山淳子(49歳・女性) 講評を読む
『熔接×熔断×ロックンガール』 鈴城なつみち(26歳・女性) 講評を読む
『ねばーぎぶあっぷ』 ミチミチル(38歳・男性) 講評を読む
『Starlet』 白井かなこ(36歳・女性) 講評を読む
『正念寺十と二ヶ月』 高野豆腐(53歳・男性) 講評を読む

※順不同、敬称略(2011年2月1日発表)

二次選考通過作品講評

『猫弁 〜死体の身代金〜』 講評

【講談社 評】
原稿のレベルの高さに、選考委員一同、驚きました。
東大卒の天才弁護士でありながら、お人好しで、ちっぽけな案件に一生懸命取り組んでしまうという、主人公の設定は、ある意味、物語の王道ともいうべき、ど真ん中。そのど真ん中の設定で、どう驚かせてくれるのかが評価の分かれどころだと思いますが、本作においては、心配ご無用。たっぷりと、物語の世界に浸らせてくれます。
人物のキャラクターやその倫理観、行動原理が自然体で、作為を感じさせないために、ラストのオチでは、「こうでなくっちゃ」という、笑いと、じんわり涙を楽しむことができます。
数多く新人賞はありますが、いままた、小説の世界に新しい担い手となる書き手が現れたことをうれしく思います。

【TBS 評】
最初は無関係に思われた登場人物やエピソードが徐々に結びつき、最後は一つに収束して感動的なエンディングを迎える。この構成の妙もさることながら、よく練られた構成の中で登場人物たちが活き活きと動いているのが素晴らしい。とくに主人公の猫弁こと百瀬のキャラクターが良いです。百瀬は次々に理不尽な目に遭うのですが、それに対して怒りもせず、逃げもせず、最終的には克服していくところに、新しいヒーロー像の誕生を感じました。
さらに彼は7歳のときに母親に理由も分らず施設に預けられ、それからずっと天涯孤独の身。弁護士だけど、人の良さが災いして事務所の台所は火の車状態にある。こういったシチュエーションをことさら悲劇として描かず、主人公が前向きに行動する動機にしているところに作者のセンスを感じます。他の登場人物も色々な理由で心に傷を持っていても、懸命に前に向おうとしています。そのため、読み終わるととても温かい気持ちに包まれます。
この作品はエンタテインメントであり、一所懸命に生きる現代人への応援歌であると感じました。


『熔接×熔断×ロックンガール』 講評

【講談社 評】
溶接・溶断作業とロックンロールを愛する女子大学生、という他に無い設定が評価されました。著者の溶接・溶断に対する情熱も感じられ、テンポのよい場面転換、短い文章での掛け合いの連続など、読み手に次のページを繰らせる仕掛けがそこかしこにちりばめられた作品です。しかし、常にハイトーンで繰り返される会話文や、「……」「!」の多用などに、読み手が徐々に慣れてしまい、クライマックスまで集中力が持続しない点が惜しかったように思います。伝えるべき情報を整理して、文章に抑揚をつけられれば、個性的なキャラクターに感情移入するよう、読み手を導くことができるかと思います。

【TBS 評】
溶接、静岡という町、ロック、ラジコン、そして小説を書く行為ほか全てに作者の強い愛を感じました。主人公が溶接の得意な男勝りな女子高校生という設定も新鮮でした。ただ惜しいのは、主人公が何でも即断即決するので、心情に葛藤がなく成長感も薄く、読んでいて感情移入がしづらい。むしろ脇役の鎌倉くんのほうが、成長している。(しかし彼の“天才ボーカル”という設定は小説では成立しますが、ドラマでは難しいです。)
この魅力的な主人公が大きな壁にぶつかり、挫折を経験した後によりパワーアップして再起する話を読みたいと思いました。


『ねばーぎぶあっぷ』 講評

【講談社 評】
オカマのチアボーイたち、という設定でコメディに仕上げていることが魅力であり、また欠点でもある作品でした。パブリックビューイングに向けて必死で練習をしたチアメンバーが本番で大失敗する光景は、そこまで感情移入して読んできた読者にとってはつらいことです。その場面をオカマという設定を使いコメディタッチで処理されたことに、違和感がありました。会話と地の文のバランスがよく、場面の切り替えもうまくされていましたが、全体を通してオカマは滑稽でおもしろい、という前提に依っているように感じられ、強く推すには至りませんでした。

【TBS 評】
地方の弱小サッカーチームを舞台に、何事にも本気になれず無気力な主人公が、チア・リーディングを通じて成長する話。普遍的なテーマをユニークな舞台の上で転がすという発想はとてもいいと思います。作者の狙い通り、ラストシーンも胸にジーンと来ます。しかし作者の優しさだと思いますが、登場人物全員に見せ場を与えているために、主人公の印象が弱くなってしまいました。もっと主人公にドラマを寄せたほうが、テーマを面白く伝えられたのにと残念に思います。


『Starlet』 講評

【講談社 評】
タイムスリップという設定を使わずともこの作品は書ける、というのが講談社側の見解です。古今東西、小説に限らず、タイムスリップを扱った名作は数多くありますが、本作がそのラインナップに加わることは難しいと思います。登場人物の感情はそれぞれの立場を踏まえてよく整理されており、作者のこだわりが伝わる魅力的なシーンも多く、本作を50のブロックに分けた場合、どのブロックを読んでも前後が気になるレベルに仕上げられていました。しかし長編としての作品作りに失敗しています。設定は大きいが、物語は小さい。そのギャップに企みも感じられなかったことから、受賞には至りませんでした。

【TBS 評】
読んでいてそのシーンの情景が目に浮かびます。映像化することを前提として考えられたことが伝わってくる作品。この作品には2つのキーポイントがあると思います。この2つのポイントを受け入れるかどうかで評価が分かれました。
ポイントその①
自分が産まれることと引き換えに、出産で母親を亡くした高校生が主人公。彼は“自分は生まれてきて良かったのか”と悩み、彼の父はいまだに“息子の生まれた意味を見つけよう”としている。このキャラクター設定を“面白い”と思うか“甘ったれるな”と思うか?
ポイントその②
主人公は自転車を改造したタイムマシンで現代から過去にタイムスリップする。この自転車型タイムマシンは“あり”か“なし”か?
この2つのポイントがOKだったら、後は一気呵成に読ませる筆力を持っています。過去にタイムスリップして、若い頃の母親と会うのもせつないですね。反対にNOだとしたら、「バック・ツー・ザ・フューチャー」に似たところのある、ごく普通のタイムスリップ物という印象になってしまいます。この作品を推す声もありましたが、大賞には届きませんでした。


『正念寺十と二ヶ月』 講評

【講談社 評】
生と死を描き、しかもお寺を舞台にするということは非常に勇気のいることで、そこに挑戦された志を素晴らしく思いました。生き死にを安易に物語に使用する作品が多いなか、本作ではあくまで自然なものとして生死が描かれている点も、評価された一因でした。何かひとつ強いこだわりを持って書いていただければ、非常に魅力ある作品に生まれ変わったのではと思います。情景描写、心情描写、物語の構造など、作者の方にはあらゆる手段を使って、ご自身が一番書きたいことを物語に込めていただきたい。そのためには試行錯誤が不可欠です。惜しい作品でした。

【TBS 評】
良く描かれた水墨画のような作品だと思いました。淡々とした筆運びですが、読んでいるうちにどんどん小説の世界に引き込まれ癒されます。人間はもちろん、野犬の親子に至るまで登場人物がみんな愛おしく描かれていました。とくに主役の二人、土田と善行の造形は秀逸。大学生(土田)のほうが小学生(善行)から“人間も自然の中の一つ”であり、“生き物への愛情”“死者への敬意”など、派手さはないけれど本当に大切なことをしみじみと教えられるのですが、決して押し付けがましく感じられません。作者の技量と見識の高さのたまものと思われます。これだけ素晴らしい点があるのですが、テレビドラマというメディアで表現するとなると勝手が違ってきます。淡々とした筆運びは、小説では武器になっても、ドラマだと“インパクト”や“キャッチ”さに欠けるというハンディになる恐れがあります。またこの小説がもつ幽玄的な雰囲気は、実写にすると妙にリアルになりすぎて雰囲気を壊しかねません。ただ全く映像化に向いていないというわけではなく、映画やアニメーションだと可能性があるかも知れませんが、ドラマ原作という賞の性格を考え、残念ながら大賞に至りませんでした。

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